石澤敦のメディカルインフォ

高血圧と塩分制限(1)

食塩過剰摂取が血圧上昇(高血圧症)の原因となることはよく知られた事実であり、「高血圧治療ガイドライン」にも、1日の塩分摂取量として「6g未満」が推奨されています。
その原因として、一般的に次のように説明されています。
☆塩分の過剰摂取
 ⇒血液中に多量の水分が取り込まれる(口渇⇒飲水量増加)
 ⇒血液量が増加
 ⇒血圧が上昇
しかし、その程度には個人差があり、高血圧には「2つのタイプ」があることが分かっています。即ち、

欧米人と比較すると、日本人には「食塩感受性高血圧」が多く、高血圧症患者の4割程度を占めると言われています。しかしながら現在のところ、「食塩感受性」と「食塩非感受性」を簡単に判別する有意な方法はありません。
実臨床においては、次のような臨床上の特徴を有する場合、「食塩感受性高血圧」を疑いながら診療に当たることになります。

高血圧とナトカリ比

上述したように高血圧症のなかにも、食塩感受性が高く減塩によく反応する「食塩感受性高血圧」と、減塩の効果が今一つという「食塩非感受性高血圧」が存在することが分かっていますが、“塩分過剰摂取”そのものが血圧上昇につながることは事実です。そして、
 ①若年者~中年高血圧患者では「食塩感受性高血圧」が多いこと
 ②また、加齢変化そのものが塩分感受性を高める可能性が高いこと
などを考慮すれば、「高血圧治療ガイドライン」にも示されているように、高血圧管理の原則が“減塩”であることは理にかなっていると考えられます。
しかし、一口に“減塩”と言っても、現在、自身がどの程度の塩分を摂取しているかを知ることは難しく、日本人の平均塩分摂取は別表に示すように、男性:10.9g/日、女性:9.3g/日と言われ、高血圧患者さんの減塩目標:6g/日に遠く及ばない現状があります。
また、塩分(ナトリウム)を制限することは勿論ですが、腎臓からのナトリウム排泄に必須となるカリウム摂取量を増やすことも同時に求められます。
その適切なバランスを知る方法が、尿ナトリウム/カリウム比(通称:尿ナトカリ比)です。
この詳細を次の項に示します。

日本人のナトリウム(食塩)およびカリウムの摂取の現状

“血圧を下げる”ために重要な生活習慣改善のポイントの一つが、食事に対する配慮です。即ち、
 ☆減塩(ナトリウムを減らす)
 ☆野菜・果物の積極摂取(カリウム増やす
●米国の研究:DASH食(野菜・果物・低脂肪乳製品・全粒穀物・鶏肉・魚・ナッツ)と、減塩を組み合わせると、通常食のグループと比較して、大幅に血圧が下がることが分かっています。
●カリウムの役割:細胞、神経、筋肉などが正常に機能するために不可欠なミネラルで、ナトリウムを体外に排泄する役割を担っています。
日本人のNa、K摂取の現状と目標とすべき値:日本人は、ナトリウム摂取が過剰で、カリウムの摂取量が少ないことが分かっています。

尿ナトリウムカリウム比(尿ナトカリ比)

●尿ナトカリ比の求め方:ナトリウムやカリウムの摂取量を正確に評価する方法は、24時間蓄尿(1日分の尿を貯める)から算出する方法がゴールドスタンダードと言われています。しかし、日常診療において1日がかりで尿を貯め、その尿を用いて計算することは現実的に難しいことです。
そこで導入されたのが、スポット尿随時尿:ある時点、外来受診時に採取した尿)を用いて測定する方法です。
●参考:スポット尿によるナトカリ比の計算(田中式):高血圧学会HP

☆使用する因子(入力因子)
☆結果(分かること)
☆注意点

①24時間蓄尿のデータと比較し誤差が大きいため、集団検診などの疫学調査(その地域住民の総体的な塩分摂取状況を知るなど)に利用すべきで、個人の塩分摂取量の評価には向いていないとの見解もある。
②従って、「24時間尿との間に誤差があり得ること」を念頭に置きながら、
・現在のおおまかな塩分摂取量を知ること。
・塩分摂取量は数日単位で変化するため、時期やタイミングを変えて測定すること。
・患者さんの「減塩に努力した」時点での値の評価。
・「通常より血圧が高めで推移している」時の、塩分摂取の状況の推定、評価。
などを目的に利用することで、減塩の動機づけや食事内容の見直しに資することができると考えている。

患者配布資料
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