コンセプト

脳卒中を未然に防ぐことの大切さ

  私は、昭和46年順天堂大学医学部を卒業後、石井昌三先生(元順天堂大学脳神経外科教授、前順天堂大学理事長)に師事し、現在までの35年間を脳神経外科医として生きてきました。大学での20年間は、講師、助教授と言う立場で、脳腫瘍や脊髄腫瘍、そして脳血管障害等の手術をほぼ毎日のように手がける一方、研究、教育に携わってきました。その後、まだ建設中の東部地域病院に脳神経外科部長として赴任し、新しい病院を創設する仕事に関わり、さらにこの10年間は、急性期病院で脳卒中の診療に特に力を注いで来ました。脳神経外科医として、手術によって患者さんの生命を救うと言うやりがいのある仕事に従事することが出来たこの35年間は、私にとって充実した年月でした。

 しかし、脳神経外科医としての仕事を続ける中で常に感じていたことがありました。それは、脳組織の機能は、何らかの理由でいったん損傷を受ければ、いかに優秀な脳外科医の手に掛かろうとも元に戻すことはもはや不可能であり、そこに脳神経外科の限界があるのではないかと感じたことでした。脳卒中、即ち脳梗塞や脳出血がひとたび発症すれば、それによって引き起こされる重篤な半身麻痺や意識障害、そして失語症や認知症などの高次機能障害によって、患者さんの社会復帰が妨げられ、その家族をも巻き込みながら不幸な結末をもたらすという現実でした。

 そして、脳卒中診療に関わって気が付いたもう一つの重大な事実は、脳卒中で倒れた殆どの患者さんにおいて、その原因となる動脈硬化の危険因子である、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満などが適切に管理・治療されていないということでした。言うならば、脳卒中はこれらの生活習慣病を放置した『なれの果て』だといっても過言ではありません。脳卒中の治療に真剣に取り組めば取り組むほど、『なぜもっと前から、なぜもっと真剣に、生活習慣病の管理が行われてこなかったのだろうか』、『生活習慣病に対する管理がもっと適切に行われていれば、脳卒中を起こさないで済んだのではないだろうか』という思いを強く抱くようになりました。

 脳卒中になった患者さんの予後を少しでも改善するために、迅速かつ正確な診断を下し適切な治療に結びつけること、そして再発しないように、患者さんとともに生活習慣病の管理に徹底して取り組んでいくことは当然のことであります。しかしながら、失われた機能を元に戻すことが現実的に不可能だとすれば、脳卒中診療の要点は、発症後の治療もさることながら、『発症を未然に防ぐこと』にあると言えます。 『なれの果て』を見続けてきた脳外科医であるからこそ、そのような末路に到るのを未然に防ぐことに真剣に取り組むことが出来ると確信しています。

 高齢化社会に突入した現在、好むと好まざるとに関わらず、脳卒中によって不幸な老後を送らなければならない人々が増え続けています。私は、35年間の経験をもとに、脳や神経に関わるあらゆる疾患について、正しい診断を下し適切な治療を行うよう努力することはもちろん、脳卒中の原因である糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の管理には特に力を注ぎ、皆様が健康で自立した、そして充実した生活を送ることが出来るよう、その手助けをしたいと考えてこのクリニックを開設致しました。

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