石澤敦のメディカルインフォ

血管性認知症(VaD:Vascular Dementia)(2)

血管性認知症の各論

(参考:かかりつけ医のための「攻める」認知症ガイド:日本医事新報社)


1. 大血管病変による血管性認知症

多発性大梗塞で、主幹動脈のアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症が含まれる。

2. Strategic single infarct dementia

視床前核、視床背内側核、海馬、前脳基底部などの、記憶に関与する重要な部分に生じた単一病変による認知症。
頻度は、血管性認知症の数%にとどまり、あまり高くはない。


3. 小血管病変による血管性認知症

細動脈から毛細血管レベルの血管は脳小血管と総称されるが、これらの血管のレベルでラクナ梗塞や白質病変など様々な病態が発現し、その結果、認知症が発症する。
視床や基底核と前頭前野などの大脳皮質を結ぶ連絡線維が、皮質下の小血管病変により寸断されて認知機能低下を生じると考えられている。
これらを小血管性認知症と称し、血管性認知症の約半数を占め最も多い病型である。
病変の主座により皮質型と皮質下型の2つに分類される。


小血管病変による血管性認知症:追加事項 ①

頭部MRIによる、各病態の鑑別所見

小血管病変による血管性認知症:追加事項 ②

大脳白質病変(white matter hyperintensity : WMH)

加齢や生活習慣に関連する脳小血管病の代表的変化で、脳血流や自己調節能の低下による、慢性脳虚血や血液脳関門の障害によって生じると考えられている。
最大の危険因子は高血圧であり、そのほか糖尿病、慢性腎臓病、メタボリック症候群、喫煙、ホモシステイン血症などが関与すると考えられている。
そのほか脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy : CAA)や遺伝的脳小血管病(CADASIL/CARASIL、FABRY病)でも高頻度に広範な病変を認める。

大脳白質病変(WMH)のグレード分類(頭部MRI所見):(Shinohara 等 2007)
大脳白質病変、続き

軽度のPVH
  • 脳室前角・後角・三角部周辺ではcap、体部ではrim(lining)と呼ばれる。やや拡がるとhalo と呼ばれる。
軽度のDSWMH
  • 点状~斑状を示し、ラクナ梗塞と混同しやすい。
    進行すると互いに融合し瀰漫性に拡がるが、U-fiber は侵されない。
    ※軽度のPVHは髄鞘希薄化や細胞間隙拡大、軽度のDSWMHは髄鞘希薄や血管周囲腔拡大が主体で、多くは病的変化ではないとされている。
中等度~高度のPVHやDSWMH
  • 不全脱髄、軸索変性、微小梗塞、血管周囲腔拡大が混在し、主に慢性脳虚血を反映した変化と考えられる。
高度な大脳白質病変
  • 脳卒中や死亡の独立した危険因子。
    病変増大も脳梗塞発症の危険因子。
    白質病変の広がりや進行と認知機能は負の相関がある。
    PVH:遂行機能、情報処理速度の低下関連が高く、
    DSWMH:認知機能低下と関連が高い。
小血管病変による血管性認知症:追加事項 ③

脳微小出血(cerebral microbleeds : CMBs)

MRI:T2*WIにおいて、2mm以上10mm未満の、点状~小斑状の低信号
周囲に浮腫を伴わない。


・危険因子:加齢、高血圧症、糖尿病
・認知症、認知障害との関連も深い
・2つのタイプ:deep CMBs と lobar CMBs

成因:ヘモジデリンの沈着
  • ① 細小動脈~毛細血管の破綻による血液の漏出
  • ② 無症候性の陳旧性脳微小出血
    ⇒ 病巣の多くは線状ないし三日月状で、T2*WIで、周辺部にヘモジデリン沈着による輪状の低信号が認められる
  • ③ 出血性(微小)脳梗塞
  • ④ その他
    ・虚血侵襲に対してオリゴデンドロサイトの貯蔵鉄が遊離される機序(出血なしでもMRIで描出)
    ・微小栓子が血管内皮細胞に包含され血管外に漏出される機序
脳卒中との関連
4. 低灌流による血管性認知症

健常な状態の脳では、自動調節能と呼ばれる代償機能によって全身の血圧が低下しても脳の灌流圧は保たれ脳血流は維持されているが、動脈硬化や脳梗塞により自動調節能が破綻すると、全身の血圧低下に伴って脳の灌流圧も低下する。

5. 脳出血による血管性認知症

脳出血の病態

  • ① 高血圧性脳出血⇒視床出血、被殻出血
  • ② くも膜下出血(脳動脈瘤破裂、脳動静脈奇形破裂...など)
  • ③ アミロイド血管症による皮質下出血
  • ④ 頭部外傷に起因する慢性硬膜下血種
6. 遺伝性血管性認知症:(=遺伝性小血管病)

脳出血の病態

  • ① CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)
  • ② CARASIL(cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)
  • ③ 遺伝性アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)

CADASILでは、若いころから前兆を伴う片頭痛や抑うつを呈し、脳梗塞や認知機能低下を認め、MRIでは、広範な白質病変、ラクナ梗塞、微小脳出血、脳萎縮を認める。
中でも、側頭葉極白質外包における、白質病変が特異的に認められる。

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