石澤敦のメディカルインフォ

片頭痛について

片頭痛の経過

*誘因:食事、光、音、匂い・・・
*予兆・前駆症状:Premonitory

過食、甘いものが欲しい、生あくび、疲労・倦怠感。
集中困難や抑うつ感などの気分変化。
羞明、光過敏(灯、太陽が眩しく感じる)や音過敏。
後頸部や肩の凝り
頻尿・・・など、様々な不定愁訴の自覚。


*前兆期:(必ずしも前兆を伴うわけではない:前兆のない片頭痛):Aura

“ギザギザした光”が見え、徐々に拡大、この部分が見えにくくなる(閃輝暗点)。
多くは、この症状は10分〜30分程度持続し、やがて消退。
前兆を有するのは、片頭痛患者の約20%


*頭痛発作期:

前兆発作が消退すると同時に、激しい頭痛発作。
“ズッキンズッキン”、“ドックンドックン”と表現される、“脈打つような”拍動性頭痛を訴えることが多い。
ただし“頭全体が押し付けられるような嫌な痛み”と訴えることもある。
歩行、階段昇降、頭を動かすなどの日常動作で悪化。
音過敏、光過敏、臭過敏、時に、強い吐き気や嘔吐を伴う。
多くの場合、閉め切った暗い部屋で、安静臥床を余儀なくされる。
一般の鎮痛剤(市販薬を含む)は、ほとんどの場合無効。


*寛解・回復期;後発症状:Postdrome

頭重感、倦怠感、眠気などが残存し、徐々に軽快。

片頭痛の特徴(上記臨床症状・経過に加えて)

(1) 頭痛発作の持続時間:数時間〜最長72時間
  安静静臥、2,3時間入眠すると改善することもある。
  1日目、12時間〜24時間持続した頭痛は一旦改善するが、翌日、再び頭痛発作が発来。
  3日目には鈍痛などを残しつつ終息する。
  72時間以上頭痛が持続する場合は、別の疾患を考慮すべき。
(2) 頭痛発作と頭痛発作の間には、頭痛症状を認めない。
(3) 頭痛や頸部痛が、突然ではなく、徐々にはじまる。
(4) 視覚、知覚、構音障害が徐々に進行し、1時間以内に治まる。
(5) 頭痛の前後に、欠伸、頸部痛、羞明、音過敏、疲労、気分変化がある。
(6) 片頭痛の家族歴がある。
(7) 50歳以上で初発する片頭痛は少ない。


まず、二次性頭痛の除外
※若年〜青年期の片頭痛の有無、片頭痛の再燃かどうか。
※鎮痛剤の常用はないか(薬物乱用型頭痛)。

片頭痛を誘発し易い薬剤

(1) SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):
  パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)、フルボキサミン(ルボックス)
(2) 経口避妊薬(黄体ホルモン・卵胞ホルモン混合剤):オーソ、アンジュ、トリキュラー、マーベロン等
  →経口避妊薬誘発性月経時片頭痛
  閉経後HRT(ホルモン補充療法)
(3) PPI(プロトンポンプ阻害薬):オメプラゾール、ランソプラゾール、ラペプラゾール、エソメプラゾール
(4) 鼻粘膜血管収縮剤:ナファゾリン、テトラヒドロゾン・プレドニゾロン配合、トラマゾリン
(5) オピオイド(麻薬性鎮痛剤)乱用頭痛:
※不用意な、コデインリン酸塩含有製剤の乱用(咳止め薬など)

片頭痛予防に有効な生活習慣改善

規則正しい食事・睡眠・運動
片頭痛を誘発する要因(個人差あり)

① 食材による片頭痛の誘発:
  カフェイン(コーヒー、チョコレート)、赤ワイン、チーズ゙、柑橘類
② 空腹、低血糖
③ ストレス、あるいはストレスからの解放時(週末頭痛発作)
④ 睡眠不足、あるいは過睡眠(休日寝すぎの時)
⑤ 肥満は頭痛の慢性化の一因
⑥ 光過敏→サングラス着用
⑦ 入浴、運動、飲酒、マッサージで頭痛は悪化する。これらを避ける。

片頭痛発作時は頭蓋内基幹動脈が拡張していると考えられ、上記の要因は、ますます血管拡張を助長するため頭痛は悪化する。

慢性に経過する頭痛

(1) 慢性連日頭痛(CDH:chronic daily headache)の定義:
   15日/月以上の頭痛が、3か月以上持続する場合。
(2) 慢性連日頭痛の起こる罠:“薬物乱用頭痛”
   *薬物乱用頭痛(MOH:medication overuse headache)の定義:
   15日/月以上3か月以上に亘り鎮痛薬を服用している場合。
(3) 薬物乱用を経て慢性連日頭痛に移行することが多い。
(4) 慢性連日頭痛の発生機序:

①疼痛閾値1
“頭痛持ち”でない人は、疼痛閾値(頭痛に耐えられるレベル)が高く、滅多に鎮痛剤を服用しない。鎮痛剤を服用すれば、切れ味良く効果あり。

②疼痛閾値2
“頭痛持ち”の人は、時々、鎮痛剤を服用する()。 もし、“激しい片頭痛発作”(例えば片頭痛発作)を有する患者さんでは、その頭痛が適切に治療されないと、痛みに対する恐怖感のため、あまり痛くない頭痛に対しても、あるいは痛くなりそうな予感の時にも、早め早めに予防的に鎮痛剤を服用する()。その結果、服薬機会、服薬量が次第に増加し、このような状況が続くと、疼痛閾値(痛みに耐えられるレベル)が次第に低下し悪循環に陥り、鎮痛剤の効果が減弱し薬物乱用型頭痛となる。

③疼痛閾値3
服薬機会と服薬量の更なる増加は疼痛閾値をさらに低下させ、痛みに対して過敏状態となる。このため、これまで痛みとして感じなかった弱い痛みを“強い痛み”として感じるようになり、それほど強い痛みではなかったはずの痛みを、あたかもあの片頭痛と同じ痛みとして感じてしまう。朝覚醒時から頭痛を感じ、一日中、しかも連日痛みが持続し、慢性連日頭痛)となり、もはや、鎮痛剤は無効な状態となっている。


(5) 反復性緊張型頭痛:頻発反復性緊張型頭痛(平均1〜15日/月)
(6) 慢性緊張型頭痛(平均15日/月以上)
   動作による悪化無し、悪心、嘔吐、音過敏、光過敏を伴わない。
   →片頭痛の併存はないか(痛みに対する恐怖心が強く過敏に反応)
   →薬物乱用(鎮痛剤の飲みすぎ)はないか

前庭性片頭痛

【症例】
20歳代から前兆のない片頭痛あり。
30歳代後半、出産後、発作消失。
50歳代になり、回転性眩暈が時々起こり、2時間程度持続する。回転性眩暈は頭位変換で増悪する。回転性眩暈に頭痛を伴わないが、光、音過敏を伴うことが時々ある。
耳鼻科受診、眼振テスト陰性、頭部MRI正常、良性発作性頭位変換眩暈と診断、メクリジン内服開始されたが無効。
※前庭性片頭痛の診断基準(ICHD-3β):
① 中等度〜重度の前庭症状が5分〜72時間持続する。
  →前庭性片頭痛では回転性眩暈は1時間以上続くことが多い。
② 頭痛発作の少なくとも50%は、下記の3つの片頭痛の特徴のうち1つを伴う。
  1.頭痛(以下の4つの特徴のうち、少なくとも1つを伴う)
   a. 片側性 b.拍動性 c.中等度または重度 d.日常動作により増悪
  2.光過敏と音過敏
  3.視覚性前兆
③ 現在または過去に、“前兆のない”あるいは“前兆のある”片頭痛の確かな病歴がある。
④ ①と②を満たす発作が、5回以上ある。
※補足:
  1.頭痛との関連がはっきりしない場合が多い。
  2.回転性眩暈に常に頭痛を伴うわけでもなく、眩暈と頭痛が順序良く現れないで同時に出現することもある。

脳幹性前兆を伴う片頭痛

(以前、“脳底片頭痛”、 “脳底型片頭痛”と呼称)
① 前兆の後、1時間以内に頭痛が起こる。
② 前兆は、以下の脳幹症状。
  意識レベル低下、耳鳴、回転性眩暈、構音障害、複視、難聴、運動失調のうち、少なくとも、2つ以上呈するもの。
  ※脳幹症状に加えて、典型的な視覚前兆がなければならない。
③ それぞれの症状の持続時間は5分〜60分で、少なくとも1つの前兆症状は片側性である。また、少なくとも1つの症状は徐々に広がる、あるいは2つ以上の症状が連続して広がる。
④ 治療:(エビデンスの明らかなものはない)
  ・予防薬の使用:
   プロプラノール(インデラール:20〜30mg/日)、
   アミトリプチン(トリプタノール:5〜10mg/日)

女性の片頭痛

女性の片頭痛の一般的特徴

(1) 片頭痛の有病率(15歳以上の日本人):
  男性3.6%
  女性12.9%(20〜40歳代の有病率が高く、初潮後に上昇)
(2) 前兆のない片頭痛発作は、月経と関連して起こりやすい
(3) 妊娠6ヶ月を過ぎると消失・軽減し、出産後再発する
(4) 閉経を過ぎると改善することが多い


月経のある女性に起こる片頭痛の国際分類

(1) A1.1.1:前兆のない純粋月経時片頭痛(女性片頭痛患者の4〜14%と少ない)
  *発作が月経開始日(Day1)±2日(月経開始2日前〜月経3日)に生じ、他の時期には認めない。
(2) A1.1.2:前兆のない月経関連片頭痛(女性片頭痛患者の50〜70%と頻度が高い)
  *上記定義に加え、
  *その他の時期にも発作を認めるもの。
(3) A1.1.3:前兆のない非月経時片頭痛
  ※月経周辺に片頭痛が見られる女性の78%は、片頭痛を月経痛の一部と考え、市販薬で対処していることが多い。


女性の片頭痛の一般的特徴

(1) 片頭痛の有病率(15歳以上の日本人):
  男性3.6%
  女性12.9%(20〜40歳代の有病率が高く、初潮後に上昇)
(2) 前兆のない片頭痛発作は、月経と関連して起こりやすい
(3) 妊娠6ヶ月を過ぎると消失・軽減し、出産後再発する
(4) 閉経を過ぎると改善することが多い


性成熟期女性片頭痛患者に対する薬物療法の注意点

(1) 妊娠中の急性期治療の第1選択薬:アセトアミノフェン
(2) 発作が重度の場合は、トリプタンが選択肢となる。
  ※トリプタン服用後、妊娠が判明した場合。
  妊娠超早期の服用は胎児への影響は少ないと考えられる。
  妊娠判明後のトリプタン服用継続は中止とすべき。
  重度の発作の場合の服用の可否については産婦人科医との相談が必要。
(3) NSAIDsは、妊娠末期には胎児毒性が問題となる。
(4) 授乳期の急性治療薬。
  ② 第1選択薬:アセトアミノフェン
  ③ トリプタン:
   ・スマトリプタンは、服薬後12時間授乳を避ける
   ・エレトリプタンは、母乳中への移行が極めて低く、授乳中の服薬可能

片頭痛と月経

(1) 片頭痛発作は月経前から月経3日目に多い。
  *エステロゲンとプロゲステロンの分泌量が急激に低下する月経前から月経3日目に発作回数増加。
  *エステロゲンのみが低下する排卵日にも発作回数が増加する。
(2) エステロゲン補充で発作回数減少し、プロゲステロンではそのような傾向が見られない。
  *発作誘発にはエステロゲンが関与している可能性。
(3) 妊娠中に改善し、分娩後再発する。

片頭痛の薬物治療

① 片頭痛の確実なコントロール(トリプタン製剤)
  ※頭痛が始まる前(前駆症状期)〜前兆期の服用が望ましい。
  ※頭痛が中等度以上になってからのトリプタン服用例では、著効しないことが多い。

② 予防薬の併用

頭痛と漢方薬(参考)
小児の片頭痛
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