石澤敦のメディカルインフォ

頭部外傷の分類(外傷様式と特徴)

前ページの外傷機転により発症する頭蓋内病態には下記のようなものがある。

① 直撃損傷直下に発生する円蓋部骨折、頭蓋骨の歪みの進展による頭蓋底骨折
② 様々な形の出血病態と脳損傷(脳挫傷)
③ 慣性と関連した脳の複雑な動きにより発生するびまん性脳損傷


頭部外傷各論

(1)頭蓋骨骨折

(2)局所性脳損傷

(2)-① 急性硬膜外血種
・前述の頭蓋骨骨折に関連して発生することが多い。
・中硬膜動脈は頭蓋骨内板の血管溝内を走行するが、この血管溝を横断する骨折により中硬膜動脈が損傷・断裂し、脳硬膜の外側に出血し血種を形成する。

(2)-② 急性硬膜下血種
・頭部打撲時に、脳実質にかかる直線的および回転加(減)速により、脳表皮質の組織破壊や小動脈の破綻、架橋静脈の断裂などが生じ出血⇒血種が形成される。
・硬膜の外側に形成される硬膜外血種と比べ、直接脳に接して発生する出血であり、同時に脳皮質の直接損傷(脳挫傷、外傷性脳出血)を伴うことから、神経脱落症状も重篤で外傷直後から意識障害を伴うことが多い。
・様々な外傷機転で起り得るが、慣性の力で脳組織が動くことによって生じるため、必ずしも頭蓋骨骨折を伴うとは限らない。
・ボクシング、格闘技、アメリカンフットボール、ラグビーなどで転倒・落下した時、たとえ落下した部位が比較的やわら床面や土・芝部の地面であったとしても、適切な受け身が行われないと、頭蓋骨内の脳に対して慣性による複雑な力が加わることになる。
外傷機転③図2等参照


【事例】

プロボクシング試合での出来事
報道によれば、「2023年12月に行われたプロボクシングのある試合において、4度のダウンを喫しながらフルラウンドを闘った選手が、判定がコールされた後自力では立ち上がることが困難となり、控室で意識を失い急変した。都内の病院に救急搬送され、右急性硬膜下血腫の診断で緊急手術を受けた」というものである。
下記は、「報道」から読み取った、あくまでも“想定”の範囲内での見解である。
頭部・顔面に激しいパンチを受けた時、あるいはパンチを受けて倒れ、床面に頭部を打ちつけた時、脳は頭蓋骨内で慣性の力によって歪み、架橋静脈の断裂・破断による出血や脳組織損傷に伴う小出血が起こりうる。そして、パンチを受けて脳が振盪する打撃がさらに積み重なれば出血は徐々に増大する可能性が高い。
また、パンチを受けた過程のどこかで、脳震盪や少量の硬膜下出血による軽微な意識障害が発生していれば、次のパンチに対する適切な受け身(打撃への対応)が困難となり、より大きな衝撃が頭部に加わった可能性も想定される。


小児の場合
① よちよち歩きの乳幼児では、体幹に比較し頭部の占める重量が大きく、かつ平衡機能は未発達でバランスを取りにくく、さらに“受け身”を取ることが出来ないため、転倒時は“もろに”頭部を打撲することになる。打撲床面が絨毯や畳のように柔らかい場合でも、頭蓋骨内の脳は慣性の力によって大きく動き、この時、架橋静脈の断裂・破断により硬膜下への出血が起こる。

② 小児折檻による頭部外傷、即ち被虐待児症候群:(buttered child syndrome)でしばしば認められる病態である。
小児を虐待(child abuse)する目的で、頭部を叩いたり(battering)、体を強く激しく揺さぶったりする(shaking)ことで急性硬膜下血腫が発生し得る。

揺さぶられっ子症候群(shaken baby syndrome):頭部を殴る力が弱くても、あるいは直接頭部を打撲しなくとも、“首の座っていない”乳幼児では、頭部が激しく揺さぶられるような外力が加わると、頭蓋骨内の脳は慣性により移動し、脆弱な架橋静脈は容易に断裂・破断し出血を起こす。
虐待の意図がなくとも、乳児を“あやす”時には注意しなければならない。

(2)-③ 脳挫傷、外傷性脳内出血(血腫)、外傷性くも膜下出血など

・如何なる外傷機転によっても起こり得る。
・頭蓋骨骨折、特に陥没骨折に関連して発生する場合や、対側打撃時に発生する場合があるが、脳組織の破壊に加え、小動脈や静脈破綻による出血を伴う。
 ⇒脳挫傷
・これら出血が時間とともに癒合・拡大し出血巣を形成したり、直接動脈が破綻し出血巣を形成する場合がある。
 ⇒外傷性脳内出血(血腫)
・脳損傷に伴い血管の破綻が起こると、出血はくも膜下腔にひろがり髄液と置換されつつ、外傷性くも膜下出血を形成する。
 ⇒外傷性くも膜下出血
・多くの場合、その周囲には脳浮腫(脳のむくみ、腫れ)を伴うことが多い。

(3)びまん性脳損傷

頭部外傷によって生じる病態のなかに、上述の頭蓋骨骨折や局所性脳損傷とは異なる一群の病態があり、これを「びまん性脳損傷」と呼んでいる。
多くは、明らかな頭蓋内占拠性病変(出血、脳挫傷)が存在しないにも関わらず、意識障害が持続する病態である。
占拠性病変が存在しないことから、通常の頭部CTでは確定診断が困難である。


びまん性脳損傷の分類

意識障害の継続時間により次のように分類される。

・意識消失が6時間以内の場合を、軽症のびまん性脳損傷、即ち「脳震盪」と判断するが、あくまでも意識消失持続時間に基づいた「臨床診断」である。
・一定の意識障害が存在する場合は、速やかに頭部CT、必要に応じて頭部MRIを実施すべきである。

びまん性脳損傷の発生機序

脳組織全体は“豆腐のような”柔らかいが、均一な物質ではなく、神経線維の束(脳梁など)、髄液の貯留する脳室などからなる不均質な組織である。
頭部に外力が加わった時、脳内部の各部位間においてそれぞれ相対的な動きが発生する。
これが脳組織内部のひずみ(剪断力)を起こし、回転加速度による脳損傷が発生する。

脳震盪(補足事項-2)

スポーツ外傷時の対応
・頭部、顔面、頸部への直接的衝撃、または、他の身体部位への衝撃が間接的に脳に伝達することによって引き起こされた脳の機能障害である。
・CTなどの画像検査では、明らかな異常が認められない。
・代表的な症状は、「混乱」や「健忘」だが、ほかにも様々な症状を呈する。
・意識を失うかどうかは決め手にならない。



① 脳震盪の症状

意識障害をチェックする=JCS(日本昏睡スケール)

脳震盪時の一般的な症状

現場で直接確認する事項

運動機能、平行機能の検査
① 上下肢の麻痺の有無:Baree test、片足立ち
継ぎ足歩行:麻痺、運動失調、平衡障害
閉眼起立:深部感覚障害

② 競技への復帰

・脳震盪を起こしたら、または脳震盪が疑われる場合、十分な休息を取り段階的に復帰する。
脳震盪の症状が完全に消失してから段階的に行うこと。

※各段階は24時間以上空ける。
 →症状がなければ次の段階に進む→症状あれば前の段階に戻る。

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