石澤敦のメディカルインフォ

前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration : FTLD)


前頭側頭葉変性症の分類:

脳萎縮の分布と臨床症状から3つのタイプに分類される。

FTLDの各臨床病型の大まかな特徴:

行動障害型・前頭側頭型認知症(bvFTD):

前頭葉が主として侵されることによって、人格変化や行動障害を中心とした前頭葉徴候を特徴とする病型。

Rascovskyらが提示した、bvFTD 臨床診断基準:

(かかりつけ医のための「攻める」認知症ガイド:日本医事新報社、参照・改変)

河野和彦先生の提示している“ピックスコア”:

行動障害型。前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断において特に重要となるのが、臨床症状の評価・解析である。河野はこれらの評価をポイント化した“ピックスコア”を提示している。

FTLDの薬物治療:

● FTLDの変性過程に直接作用し、病気の進行を抑制したり、治癒せしめる根本的治療薬は、残念ながら存在しない。

● アルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンは、その有効性が実証されていないだけでなく、特に前者(ドネペジル等)は、行動障害、興奮性を刺激し病状の悪化をもたらす可能性が高く、安易な導入を控えるべきである。

● 常同行動、うつ、食行動異常などには、向精神薬、ウィンタミン、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI:パキシル)が有効であるとの報告がある。

● 興奮、暴力、脱抑制が強い場合は、少量の向精神薬を使用することもあるが、用量設定が 難しい場合があり、このような場合は専門医に治療を委ねるのが賢明であろう。特に、セロクエルは糖尿病には禁忌となっているので十分に注意する必要がある。

● 陽性症状の強いケース:
① アリセプト使用例では、中止するか減量(例えば、半錠2.5㎎)
② ウィンタミン、コントミン(12.5㎎):2~6錠
 ※約5%で肝障害
③ 無効、使用不可例では、セロクエル(24㎎):1~6錠
 ※まず、1錠半(37.5㎎):2錠以上ではふらつき、傾眠
 ※糖尿病では禁忌

意味性認知症(SD):

◇ 主として、側頭葉の前方から底面にかけて侵され、「意味記憶の障害」を特徴とする。

◇ 最も特徴的な症状は、「語義失語」
・ 物の名前が言えない。
・ その名前を聞いても何を意味するかが分からない。
・ 発語の問題ではないため流暢に話すが、医師の言葉が理解できない。例えば、「利き手はどちらですか?」と問うと、「キキテって何ですか」と答える。

◇ HDS-Rでは、
質問の内容を理解できない、
・ 「5物品課題」では、提示された物品の名称を言うことが出来ない。⇒物品の使い方は分かり,ハサミを見せると「物を切る」仕草をすることもある。
・ 「野菜10個の課題」では、野菜の名称をそもそも言うことができない。結果として質問に答えることが出来ないため、点数が著しく低値となる。
失語状態による点数の低さであり、重度の認知障害と判断してはならない。

◇ 分からない言葉を、「あれ、これ、それ」などで補いながら流暢に話すため、言語障害に気づかれないこともある。

◇ 側頭葉の萎縮には多くの場合左右差があり、右側頭葉の萎縮の強い例では、顔を見てもそれが誰なのかわからなくなる「相貌失認」が認められることがある。

常同行動や食行動異常などの行動障害や共感性の欠如なども早い段階から認められる。

進行性非流暢性失語(PNFA):

左側優位にシルビウス裂周囲が侵され、非流暢性の失語が生じる。

◇ 発語が努力性で速度が遅くなり、発音が不明瞭になる。「吃音」のように言葉がたどたどしく、復唱困難となる。

◇ 言語理解は比較的保たれる。

◇ 障害が言語領域のみに限局するため、日常生活は概ね自立可能し、行動障害は進行期まで目立たない。

※上記2つ病型では、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチのいずれかで改善することが、ある程度期待できる場合もある。

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